~夢奇房第3回公演『瞬~舞台の狭間のほのかな刹那』公演レポート~ 寄稿 照明チーフ
『瞬』の舞台スタッフ『照明チーフH』が調光室からの視点でレポートさせていただきます。赤羽会館大ホールの調光室は、舞台の上手側の客席上にあって角度はきついけど公演の雰囲気を生で味わうことができるのです。でも、スタッフの仕事しながらレポートできるのか?なんて言われそうですが…。
当日、そんなこんなで時刻は5:30。ついに開場の時間がやって参りました。
悪天候でお客さんの出足が遅れるのでは?と心配していましたが、開場とともにあれよあれよという間にお客さんが入ってくるではありませんか!15分で7割くらいは埋まっていたでしょうか。お越しいただいた皆様には感謝感激です。
…このとき裏方では年に一度、本番直前恒例のスタッフチーフによるインカムトーク中!
音響担当、ピンスポット担当、そして私の3人で『ついに、本番始まっちゃう』、『お客さんの入りはどう?』、『もう10分前だ』など…緊張を紛らわすことを兼ねて勝手に盛り上がっているわけです。
まだ、開演まで時間がありますが、そこでお客さんを飽きさせないのが夢奇房の良いところ。3人のクラウン(OZ、AI×2、SO)が会場を温めます。ちなみにお客さんにとって、開演前に緞帳が開いているのはビックリするのでしょうかね?もう恒例となりつつありますが、こういった試みが舞台と客席の距離を縮めているのかなと感じます。来年の公演も早めにお越しいただくことをお勧めします。
気がつけば、OZが舞台に上がっているではないですか。しかもポップコーン食べています。食うな!こぼすな!と叱りたかったです。元気のない支配人が気になったのでしょうか、支配人に悪戯をして…あっ、すぐどこかに消えてしまいました。
いよいよ、開演30秒前。
私の最初の仕事として、会場を暗くする仕事があります。ボタンを押す簡単な作業ですが、実は一番緊張するところです。『もう後には戻れない』感がたまらないのです。
…それでは『瞬』の始まりです。
つまらなそうな支配人の後ろからOZが指揮棒と譜面を持って戻ってきました。
支配人が不思議な指揮棒を振ることにより舞台に音が、光が蘇ります。支配人が自分の意思で指揮棒を振ったことは重要な事だと思います。彼の心に想いが微塵もなければ、指揮棒を振ってみようと考えなかったはずです。OZが直接手渡さなかったのもそのためなのかなと。こうみえてもOZはちゃんと考えているようですね。昔を思い出したのか?調子に乗っただけなのか?支配人は舞台中央でタップダンス!密かに用意していた専用照明で照らします。うーん、かっこいい。OZも加わって2人でダンス?を始めました。
ダンスの終わったOZと支配人をよそにピンロールの中、登場したのはタクト。ショータイムの始まりです。スタンダードなマジックの中にもおもしろい動き、怪しい動きをからめ、飽きさせない。タクトの演技はみんなを引っ張っていくにふさわしいものでした。
舞台変わって楽屋…。幕が開くと、セバスを従えて、専用照明付きでマダムが堂々の登場です。音も光も舞台上のモノすべて、あなたのためにあったようなもの。舞台上での存在感、指の先まで行き渡った美しさは見事の一言です。
そのマダムの従者セバス。支配人を見事に?追い払い、そしてマジシャンとしては、マダムにも引けを取らない、優れた指さばきを見せてくれました。でも、最後はマダム見つかってしまいました。彼の今後が気になります。
暗闇から聞こえる足拍子、手拍子。そこに現れたのは踊り子クラベル。彼女の踊り、その演技は人の魂・心を動かすような情熱的なものでした。ここぞとばかりにとっておきの『赤』照明を使用させてもらい、それを生かす素晴らしい演技をしてくれました。
そのクラベルの踊りに魅了され、動き始めたゴーストたち。その中から現れたポルテ&ガイスト。仮面を被って表情はないのに、独特の世界を創り出す見事な動き。クラブさばきがまるで時間を操っているかのようでした。
舞台に戻ると、使用人ドロシーが独りで譜面を見つめています。何を想うのか。
そのドロシーの想いを表現してくれたフルートの美しく、生きた音色は、聞く人のいろいろな想いを込み上げさせたことでしょう。素敵な音色をありがとう。
妖精フェアが拾った肖像画から呼び戻されたピエル。彼のボールの扱い、2人の舞は素晴らしく美しいものでした。ジャグリングという一つの言葉で簡単に括るものではない気がします。1+1=2ではない、今回の芸術的な演技はそれを証明するものです。
突然、会場が明るくなり、風船が落ちて何だろう?そんな中、突然Mr.ハートがハート隊を引き連れてピンク照明で登場。これにはお客さんも唖然とした様子。カードや玉といったマジックの王道のネタをやっているにもかかわらず堅苦しくなく、実は難しいコトをやっているのにそれを感じさせない…素敵なエンターティナーでした。
そのハートと入れ替わるように現れた2人。これがポルテ&ガイストの真の姿。ゴーストの時と違って、躍動感溢れるパフォーマンスもまた素晴らしい。小と大、赤と青、笑顔と無表情。好対照な2人が息を揃えて織り成すアンサンブルはこんなにも面白い。
最後の登場は、涙を見せたドロシーのその想いに答えるべく、現れたスコア。
私もスコアの合図に従い、舞台を明るく照らします。こういう操作は一緒に演技してる気分になれて、とても気持ちいい瞬間です。この照明やドロシーを綺麗にするあたり、スコアはカッコ良すぎます。そんなスコアの不思議さとドロシーの想いとが重なって2人の演技は素晴らしいストーリーとなりました。
そういえば、ホウキから出てきたハトがドロシーのところに戻ってくるステキな出来事には客席も盛り上がりましたね。
舞台の名のとおり、公演の時間はあっという間に過ぎ去りました。
支配人は過去と触れることにより、未来への願いを心の中に思い描くようになりました。ただ、その夢は描き始めたばかりで、実際に叶えられるかどうかはわかりません。でも、叶えようと動き始めたことで支配人自身に輝きが蘇りました。
ドロシーは気がつけば、綺麗な衣装を身にまとい、明るく照らされた舞台に立ち、支配人の元を旅立ちます。強い想いが夢へと導いたのでしょうか?それは、この夢奇房の舞台に立った皆が証明してくれています。皆の『舞台に立ちたい』という強い想いがあるから、この『瞬』があるわけですから…。ただ一方で、ドロシーには夢を叶えるために捨てなければならないものがある、という現実がありました。
夢奇房3つ目の扉…。
人によって捕らえ方は様々だと思いますが、各々が感じたこと、それが『扉の先にあるもの』になるのだと思います。
私事になりますが、この舞台、この瞬間、皆の夢を照らすこと、これが1年間願い続けてきたことであり、それが実現できました。夢奇房の皆、本当にありがとう。
では、夢の続きは第4回公演で…。